恋愛中毒 読了
山本文緒先生の「恋愛中毒」を読んだ。
別れた相手に執拗に追い掛け回され、転職を余儀なくされた男性社員の井口。その井口の勤める会社へ、元彼女から電話が来たことから物語が動き始める。
会社へ現れヒステリックになる元彼女を、ぶん殴って追い払いつつ、一方で、その異常なまでの執着心に理解を示す事務社員の女性水無月。その水無月は、社長萩原との間に秘密を抱えており、社内では萩原の愛人ではないか、と噂されていた。
井口と水無月が、萩原に誘われて居酒屋で顔を合わせる。社長が体調不良で席を外し、井口と水無月が二人っきりになったところから、水無月の長い自分語りが始まる。
伏線を張るたびに場面が転換し、まるで伏線などなかったかのように話が展開するので、どうやって回収するのか知りたくて途中で手が止まらなくなり、一気に読んだ。裏表紙のあらすじを読んだときは、悲しい静かな恋のお話なのかと思っていたが、正反対だった。恋愛小説の皮を被ったサスペンス。もしくはホラー。
井口の目線では、クールだけれど、どこか冴えず、何を考えているかわからない水無月。しかし、逆に、水無月自身の視点で語られる彼女の恋愛事情を知ると、その心の奥底に確実に存在する、ねっとりと重く深い闇を覗き込んだ気がして恐怖感が湧いてくる。
今まで水無月が冷静に観察し、描写されていたと思った世界に、気づかぬうちにヒビが入り、終盤で突然、ドミノ倒しのように崩れ去る。そして、辛い過去を乗り越えて、ようやく終わったと思っていた彼女の恋愛中毒が、実は現在進行形であることが明かされて、物語が終わる。
記憶を無くして読みたい作品リストに追加したい作品。
本来の楽しみ方とは別に、小説家創路に、北方謙三先生を重ね合わせて、楽しんでいた。「試みの地平線」はおススメ。